最近のジュリアン・アサンジ

ジュリアン・アサンジが米国外交機密文書の束を小出しにしながら、最初に接触したメディアは英国ガーディアンだった。同紙は内部で真剣に検討したあと、ラス・ブリッガー編集長は、NYタイムズに編集局長に電話をかけて、「アサンジのもたらす機密情報をシェアすることも含めて、この話に興味があるか?」と。

NYタイムズに編集局長のビル・ケラーは即座に言った。「興味があります」ワシントンからロンドンへ担当記者(軍事情報チーフのエリック・シュミット)が飛んで、打ち合わせが開催された。

ロンドンで念入りな会合は何回も開かれ、両紙がそれぞれの興味のある分野を、「分担独占」というかたちで掲載する合意が得られた。

いくつかの文書に関して第一に検証作業が進められ、裏取りがなされる。まず両紙が疑ったことは、アサンジの背景になにかとてつもない陰謀集団が存在し、メディアをかれらの謀略に巻き込み、世界を揺らすだけではなく、特定の国々の政策変更をもたらそうとしているのではないか、陰謀に巻き込まれる懼れがないかという視点から機密情報の束が分析された。

NYタイムズのシュミット記者はガーディアン紙のメンバーと幾つかの機密文書のテスト確認を行い、アフガニスタンの情報について、その報道価値を見いだした。

第二に人名や特定の場所を明記して、過激派のテロや報復の対象とならない配慮が必要である。ガーディアンはイラク戦争アフガニスタン戦争に記者を派遣しており、犠牲記者もいる。同業ロイターはバグダッドでふたりが死んでいる。

NYタイムズもイラクで四人が殺され、アフガニスタンでは四名が人質となった。そのうちのふたりはタリバンに数ヶ月拘束され、助手のアフガニスタン人は殺害され、ともかく戦争報道にも犠牲をともなうことを欧米のメディアは覚悟している。

第三に公の利益を毀損するものは熟慮が必要であるとされ、NYタイムズの部内にも九人の記者からなる特別チームが組織された。このためにCIA、FBIペンタゴンともNYタイムズが接触し、政府の情報機関の反応を事前に把握した。

一斉公開の五日前には国務省の窓のない部屋にCIA、国務省高官、ペンタゴンFBIホワイトハウスなどから担当官があつまり、深刻な会議が開催された。この事前会合が存在したことは、これまでNYタイムズは触れなかった。

ロンドンでの事前作業の後半から独シュピーゲルが仲間に加わった。三紙の間で「エンバーゴ」が策定された。エンバーゴとは、新聞業界用語。「公開時期までは報道しない」という原則である。仏ルモンドと西パイソが加わるのは、それから三ヶ月ほどあとのことになる。

これで五大紙が、2010年11月28日に一斉に報道を開始するという取り決めがされる。

もうひとつ、重要なことを確認している。それはアサンジとは「協同」しないという原則である。NYタイムズは、アサンジを「情報源」して定義付け、決して「協同」するのではなく、ましてアサンジは彼独自の策略をもっていることを認識した。

話をすこし前に戻すと、ロンドンのガーディアン紙本社で、シュミット記者は初めてアサンジと会った。派遣されて四日目だった。

「やつは長身で、服装が汚く匂う。おそらく何日も風呂にはいったことがない。青白い肌をしていて、灰色の目、そして白髪だ。」と彼は感想を語る。「そのうえ陰謀好きな性格で、傲慢で、それでいて騙されやすそう。それにしてもコンピュータ技術は凄いっ!」と。

そして、アサンジは要求を嵩上げし、ガーディアン、NYタイムズと打ち合わせの段階で揉めに揉めることになった。アサンジは叫んだ。「わたしの言うとおりの筋書きで報道して欲しい」と。

しかし報道の自由とは言っても「報道するべきことと、しないことがある」と反論した。NYタイムズによれば「アサンジに助言したが、かれは聞く耳を持たず、やがて彼はガーディアンとNYタイムズを『敵』と呼んだ」。

NYタイムズはけっきょく、かれに情報提供料を支払ったことはないとビル・ケラー編集局長は書いている。激怒したアサンジは腹いせに、英紙タイムズとの独占インタビューに応じ、ガーディアンへの悪口をぶちまけた。

タイムズはガーディアンのライバルだが、アサンジのインタビュー記事のあと、社説に「アサンジは馬鹿で偽善者だ」とこき下ろした。かように英米のメディアはジュリアン・アサンジに対してひややか、保守系はかれを犯罪者扱いしている。